みなさんこんにちは!
今回は、単独飼育のシシオザル・マサヒロのお話です。

当園では5頭のシシオザルを飼育していますが、
マサヒロは群れとは別にひとり暮らし。
マサヒロの母・チェルシーは出産後すぐに亡くなり、
マサヒロは飼育員や獣医師が ミルクを与えて世話をする
人工哺育という方法で育ちました。
そのおかげで命は助かったのですが、
シシオザルとしてのコミュニケーションを
身に着けることができず
群れに戻ることはできませんでした。
現在は、すこしでもマサヒロが日々を楽しく過ごせるように
環境エンリッチメントなどに取り組んでいます。
そのひとつに、フィーダー(給餌器)があります。
野生のシシオザルは、食べ物を探して動き回り、
食べることに長い時間を使います。
動物園ではただエサをあげるのでなく
食べることに 頭と体と時間を使ってもらうために
フィーダーを利用しています。
シシオザルは高い木の上に登り、
木の実や木の葉を食べるので
群れのシシオザルたちのフィーダーの多くは
高いところに設置しています。

ぶら下がってフィーダーを使う♀アヤ

後肢でしっかりつかまってエサを探します

立ち上がって枝をかじる♂ツバサ
マサヒロに対しても同じように考えて
高い位置の止まり木にぶら下げました。

一応使ってはくれるものの 必ず下からアプローチ
フィーダーのひもを短くして 登らないとおやつをとれないようにすると 登らないまま…
高い位置のとまり木の上におやつを置いておくと 登らないまま… 食べないまま…
おやつがいらないわけではないようで、 床に転がしておいたフィーダーは
熱心に使っています。

そのうち慣れて登るようになるはず!と
高い位置にもフィーダーを設置していたのですが、
この傾向は数か月変わりませんでした。
実は、マサヒロは足腰があまり強くなく
後肢の動きがやや不自由です。

♀ミカは頭と腰の高さがほぼ同じですが

♂マサヒロは後肢が開いていて 腰の位置が低いのがわかります
ふだんの生活に支障はなく、 木に登ることもできますが 他の個体と比べるとひょこひょこ歩きます。
高いところをあまり利用しないのは
体のことも影響しているのかもしれません。
そこで、登ってもらうのをひとまず諦め
マサヒロがよく使ってくれている 座って使えるフィーダーを
充実させてみることにしました。

お気に入りの転がすフィーダー。
エサといっしょに乾草を詰めておくと、
乾草を取り出しながらにおいを嗅ぐ行動も
見られるようになりました。

湯たんぽフィーダーもお気に入り
高いところにフィーダーを吊るしていた時よりも
食べることに時間をかけるようになりました。
群れのシシオザルたちは 高いところにとまり木を設置する すぐに登っていき、 高い場所で休憩することを好みます。
そんな様子から、 「サルは木に登る“はず”」
「高いところ・不安定なところで食べるのが良い“はず”」
と考えていましたが
マサヒロにとっては少し違うのかもしれません。
その動物種が本来持つ行動を引き出すことは
とても大切です。
しかし、個体の特性や好みに合わせて
その個体がよりいきいき過ごせる環境を
考えることはもっと大切だなと
マサヒロから学びました。
とはいえ、高いところに登ることで
ふだん使わない筋肉を使ってもらったり、
シシオザルらしい行動をとれるような
選択肢を用意することも大切です。
マサヒロに合わせながら、
少しずつ行動範囲を増やす
きっかけも作っていきたいです。
”(そんなに)木に登らないサルがいたって いいじゃない!”
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