ムシムシ観察記
クツワムシは何色?
「鳴く虫」の中でスズムシやコオロギよりも知られていないクツワムシ。桜の開花も早かった今年、動物資料館の研究室では例年より1か月以上も早い3月末から次々にふ化しました。
クツワムシは体長約5cmにもなる大型の虫で、夜間に「ガチャガチャ」と機械が壊れたような声で、しかも大音量で鳴きます。成虫の体色は茶色っぽい褐色型と緑色の緑色型に大きく分けられますが、その中間型もいます。
今回はその体の色に注目してみました。
緑色型オス
褐色型メス
左:褐色型 右:中間型
クツワムシは、ふ化直後はどの個体もとても鮮やかな明るい緑色。しかし、ふ化後2週間ほど過ぎ1回脱皮したころから体色が変わってくる個体が出現します。緑から黄色へ、黄色から茶色へと変化するのです。同じ親が産んだ卵からかえり、同じ環境で飼育しても8割から9割が茶色い褐色型へと変化していきます。
ふ化直後はこんなに鮮やかな緑色!
上のほうに卵の殻が見える
あれ?黄色い個体が出現!
茶色くなった褐色型と緑色型
どちらもまだ幼虫です
飼育下で確認した変化なので、自然環境下でどうなのかはわかりません。しかし、自然の中でも褐色型の個体の方をよく見かけるようです。そこで、美しい緑色のまま成虫にできないものかと考えてみました。
環境により体色を変化させる生き物はたくさんいます。例えば、クロメダカは白っぽい砂の入った水槽中では白っぽく、黒っぽい砂と周りを少し暗くすると黒っぽく変化したりします。環境になじむことで自分を餌とする敵から身を守る、いわゆる保護色というものです。
緑色型、褐色型の体色もこの原理でコントロールすることができるかもしれないと考え、ふ化後1週間以内の個体を飼育ケースに入れ、何も覆いをしないものと緑色の覆いをしたものと準備し観察することにしました。飼育ケース中の個体数は、1匹、2~3匹、多数といろいろ準備しました。
緑色の覆いをしたケースのグループ
覆いをしないケースのグループ
各ケースのクツワムシを観察した結果、緑色の覆いの有無はあまり影響がなく、褐色型に変化するものが多くみられました。
ではどんな条件だと緑色型になったかというと・・・例数が少ないのであくまでも推測ですが、個別に飼育した個体で比較的緑色型のまま成虫になった個体が多い傾向が見られました。つまり、1匹飼いです。
1匹飼いできれいな緑色の成虫(オス)に!
例えば衣装ケースのような大きな入れ物で多数を一緒に飼った場合、ケースによってはすべて褐色型に変化したものもありました。
また、脱皮に失敗して羽がぐちゃぐちゃになったものが何例か見られましたが、これらはすべて緑色型。成虫になる直前に死んでしまった個体も緑色型が多かったことがわかりました。きれいな緑色の成虫になったのはほとんどが1匹で飼っていた個体。
緑色型は褐色型より繊細というか弱いように思われます。緑色型の成虫を複数一緒のケースに入れてしばらくすると、褐色型に移行する中間型になる個体も多数観察されました。
脱皮に失敗した個体
こんな状態でも飼育下ではちゃんと生きています
これらのことから、「ストレス」が褐色型に変化する要因の一つではないかと考えました。「強くなろうとするスイッチ」が入ると褐色型に変化するのかもしれません。来年は、同じ日にふ化した多数の個体をある程度の広さのケースで個別飼いしてこの「ストレス説」を確かめられたらと考えています。
ストレスフリーに飼育するときれいな緑色型の成虫になるでしょうか?まだまだ分からないことがたくさんあると思うとワクワクします♪
☆★資料館・津田★☆ |