熊本市動植物園には2頭のアフリカゾウがいます。 若干大きめのマリー(メス、推定40歳)と、食いしん坊だけど小柄な エリ(メス、推定39歳)で、小さい時から当園で暮らしています。
(上)マリー (下)エリ
写真でおわかりのように、最近マリーの牙が伸びてきて、先端が くっつく寸前になってきました。 ゾウの牙は、ヒトでいえば上の一番前の歯「切歯(せっし)」に あたります。ただ、ヒトの切歯と違い、ゾウの牙は毎年数センチ 伸び続けます。 マリーの牙は内側に湾曲(わんきょく)しているので、放置していると 最後は先端がくっついて、いろいろと不都合なことが起きてきます。
①鼻の上げ下げするのに邪魔!(に違いない) ②両側から圧力がかかり、牙が割れたり折れる場合がある ③地位の低いエリや飼育員に、先端で危害を加える恐れがある そこで、約4年ぶりに牙を切りました。 10月20日に左の牙を、先端から25センチ位のところで切りました。
↓片側切断後は、あまり見栄えがいいものではありません。
↓31日には、今度は右の牙を切りました。 一番マッチョな飼育員も、牙の硬さには非常に手こずりました。
↓切った牙は太さ約6cm、重さは片方で約1㎏ありました。 また、個体差はありますが、断面は決して円形ではなく、 四角いのがわかります。
↓これでまた大好きな孟宗竹も折って食べることができます。 牙を支点にして一気に折ります。バキバキと音が聞こえてきそうです。 これでひとまず安心!と思ったのもつかの間、今度は右の奥歯 (臼歯)が脱落しているのが見つかりました。
ゾウの歯は、草履のような長い歯が上下左右1本ずつ、 計4本しかありません。 一生に5回生え変わるのですが、ヒトのように下から押し出される のではなく、奥から手前に押し出されてきます。 自然に脱落するので、運動場の土や寝室の糞に紛れて見つかれば 確認できますが、なかなかうまくいくものではありません。 今回は歯が見つかり、口の中の確認もできましたので順調でした。
↓脱落した右臼歯
↓(左)脱落前と(右)脱落後
牙を切ったり、口の中をのぞいたり、いとも簡単にやっているように 見えますが、これができるのも日々の訓練の積み重ね、長い間築き あげてきたゾウとの信頼関係のたまものです。
朝夕の訓練では、ゾウが指示に従ったり、じっと静止していられたら ごほうび(専門的には強化子といいます)を与え、ストレスを与えない よう、ゾウの方から協力してもらえるよう仕向けています。
また、牙を切るまでにはまず、ノコギリを見せる、柄を牙に当てる、 刃(背)を当てる、刃(背)でこする、と毎日少しずつ進めて、動物の 抵抗がないことを確認(刺激に対して感覚を鈍らせ反応をなくすこと、 脱感作といいます)しながら、ようやく本番にたどりつくのです。
今回はゾウの話でしたが、飼育員が動物の健康管理に日々奮闘している ことが少しでもわかっていただけるとありがたいです。
飼育展示第2班
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