熊本市動植物園トップ
   ホーム  >  ブログ [ 飼育ブログ ]   >  資料館つれづれNo.33『鳴く虫はベビーブーム』

ブログ

カレンダー
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031



最近の記事
分類選択
タグリスト
以前の記事
キーワード検索
  飼育ブログ  植物ブログ

資料館つれづれNo.33『鳴く虫はベビーブーム』

2020年6月2日(火)

鳴く虫はベビーブーム

 

4月後半から5月にかけて、動物資料館の研究室では次々と鳴く虫の仲間が孵化しています。4月21日にはスズムシが、5月3日にはクツワムシ、6日にはエンマコオロギカンタンが孵化を開始しました。

 

1

かえったばかりのクツワムシ

鮮やかな緑色で大きい!!

 

これらは、昨年、一昨年と夏から秋にかけて実施した『鳴く虫展』に展示した虫たちの卵がかえったものです。昨年展示した虫たちのうち、エンマコオロギの一部やフタホシコオロギなどは温度管理をして冬中次々と孵化させていましたが、多くの虫たちはバックヤードや冷蔵庫内で越冬させました(参照:資料館つれづれNo.26『せっかちなスズムシ』)。


 2

エンマコオロギの一齢幼虫

白い腹巻がカワイイ

 

鳴く虫は種類により孵化条件やタイミングは様々ですが、「休眠」を必要とするかしないかで大きく二つに分けられます。「休眠」とは、発生を途中で休止することです。鳴く虫の卵の一部は、寒い冬を過ごすことでその時期に孵化への成長を休止、つまり「休眠」するのです。

 

休眠という段階を経ないと孵化しない、または正常なタイミングで孵化しなくなる卵は休眠卵で基本的に一年に一度しか孵化しない種類(スズムシ、カンタン、クツワムシ等)がそれにあたります。一方、一定の温度以上であれば休眠せずとも孵化する、または休眠そのものがない種類(タンボコオロギ、フタホシコオロギ等)の卵が非休眠卵です。

 

3

カンタンの幼虫

小さいけれどぴょんぴょん良く跳ねる

 

エンマコオロギは、一定温度(約22℃)の研究室で冬季に次々と孵化するものもありましたが、そのほかに越冬(休眠)させるときの温度条件を2通り設定しました。①資料館裏のバックヤードにおける自然のままの温度変化と②冷蔵庫内における一定温度(6~8℃)です。それぞれの飼育ケースは5月6日と3月30日に研究室に入れましたが、それぞれ5月19日、5月6日に孵化を開始し、毎日たくさんの幼虫がかえっています。

 

越冬時の温度が一定であるかどうかにかかわらず、暖かい場所(研究室)に移して2週間~1か月くらいで孵化したことになります。休眠させたエンマコオロギの幼虫は、研究室で休眠しないまま冬季に孵化した幼虫の数よりずっと多いようです。

 

4

研究室の虫の棚の一角(一部)

色々な種類、越冬条件の飼育ケースが並ぶ

 

スズムシでは同様の「温度」条件に、産卵済みマットの「乾燥」の有無を冬越しの条件に加えました。「乾燥」を条件に加えた理由は、ホームセンターなどでスズムシの乾燥卵が販売されており、筆者自身も毎年乾燥させて越冬、孵化させているからです。

 

バックヤードで越冬させた乾燥スズムシマットは3月18日にしっかり湿らせ、一つはその日のうちに、もう一つは5月6日に研究室に入れました。それぞれ4月21日と5月16日にたくさんの幼虫の孵化が確認されています。つまり、どちらも湿らせて1か月から1か月半くらいで孵化が確認されており、スズムシの場合しっかり休眠期間を経れば乾燥は孵化の時期と孵化率にあまり影響がないと考えられるようです。

 

5

コオロギの一齢幼虫

孵化したばかりの幼虫は体が白く、とても小さい!

 

色々な条件下で越冬させたスズムシの中で一つだけいまだに孵化を確認できないものがあります。それは、研究室の中で乾燥させて休眠させないまま越冬させた卵です。3月17日にマットを湿らせたものの、いまだかえりません。スズムシは1年に1回しか孵化しない虫だから、休眠が必要だったのでしょうか?

 

しかし、同じく研究室で湿らせたまま越冬し、2月18日に孵化したせっかちなスズムシ(参照:資料館つれづれNo.26『せっかちなスズムシ』)は無事成虫になりました。孵化した幼虫はちゃんと成長しています。ただ、他の条件下のスズムシと比べると孵化する数がずっと少なく、孵化率は非常に低いようです。

 

6

せっかちなスズムシの成虫一番乗り

 

研究室で乾燥したまま越冬したスズムシは、「休眠なし」と「乾燥」のダブルパンチで孵化しないのかもしれません。一昨年、快適な空調を利かした自宅のリビングルームで越冬した筆者が飼育するスズムシも、わずか1匹しかかえりませんでした。初めての経験でした。

 

現在、研究室は鳴く虫のベビーブーム真っ最中。まだ孵化していないマツムシキリギリスクマスズムシツヅレサセコオロギ等が後に続くのが待ち遠しいです。みんなしっかり休眠させました。うまくかえるといいなあ・・・ドキドキ。まだまだ分からないことがたくさんありますが、経験を積んで虫好きの皆様に色々なことをお伝えできればいいなと思います。

 

ところで、昨年の鳴く虫展で希望者の皆さんにスズムシを配布しましたが、「来年是非孵化させたい」とご相談された方がたくさんいらっしゃいました。そろそろ孵化するころですね。「かえりました!」とお電話をくださった方もいらっしゃいますよ。スズムシの輪が広がっていると思うととても嬉しいです

 

☆★資料館・津田★☆

 戻る ホーム
このページの先頭へ
熊本市動植物園   〒862-0911 熊本県熊本市東区健軍5-14-2
TEL 096-368-4416   FAX 096-365-5671