モグラと知恵比べ
新型コロナウイルスの影響で休園が続いている熊本市動植物園。いよいよ5月18日から部分開園となりましたが、動物資料館は屋内施設ということで残念ながらまだ開館の予定さえ分からない状況です。
そこで、動物資料館からは今までにも増して館内の生き物の話題をお届けしようと思います。
今回は一番人気のモグラです。
資料館では1匹のモグラを展示しています。名前は『ハツ』。毎日食べているエサが、牛の心臓(牛ハツ)であり、覚えやすく響きが良いことからこの名前が付きました。
土の中で暮らすモグラという生き物がいることは皆さんご存知ですね。姿かたちのイメージもあるかと思いますが、このように多くの人に知られている動物にもかかわらず生きた本物のモグラを見たことのある人はとても少ないのではないでしょうか。動物資料館では、そんなモグラの活動の様子を見られるように工夫して展示しています。
モグラのお家
モグラの展示スペースは、寝室(巣)、トイレ、エサ場とそれをつなぐパイプ(モグラの坑道)から作られています。
自然の中のモグラの巣は動き回る坑道より少し深いところにあり、大きさは大人の男性の握りこぶしより一回り大きいくらい。その中に草や落ち葉を持ち込んでベッドを作っています。資料館のモグラの寝室(巣)は、プラスチックの飼育ケースに柔らかいウッドチップを入れています。この巣の中で丸くなって眠るハツの様子が観察できますよ。
モグラは、巣のそばの比較的短い坑道の行き止まりをトイレとして使用することが知られており、展示のトイレはそれを模して作られています。このスペースに入れてすぐのころに坑道途中で出したウンチをトイレ部分につけておいたところ、ハツはすぐにトイレを覚えました。トイレに入るときは後ろ向きに入ってシッポをピッと上げ、おしっこやウンチをします。汚れる部分が少なくなるように行動するきれい好きです。
真ん中がトイレ、右側のケースが寝室
エサ場も寝室と同じくプラスチックの飼育ケースを使用して、エサ入れ(エサはミミズに見立てて細長く切った牛の心臓)と水の入った容器を入れています。水の容器は鳥用の陶器製。ハツが容器のふちを前肢で持ち、長い鼻先を水に入れるようにして水を飲んでいる様子はちょっとかわいいですよ。モグラは想像するよりもよく水を飲みます。
左がエサの容器、右が水の容器
寝室(巣)、トイレ、エサ場をつなぐ坑道(パイプ)は、直径が約5cmです。モグラ1匹がやっと通る位のジャストフィットの大きさ。実際のモグラの穴の直径もこのくらいで、この坑道を行き来して生活するので、モグラは体の一部が何かに接触していると安心するのだそうです。
モグラはなかなか学習能力の高い動物です。トイレをすぐ覚えたのはもちろん、ここからどうやって脱出しようかと日々試行錯誤の毎日のようです。
ある日、ハツのご飯を準備しようとエサ場の容器に近づくと、何と蓋が開いているではありませんか!すぐそばにいたのですぐに確保!!しっかりゴムバンドで縛っていたにもかかわらずなかなかの力持ちで器用な動物のようです。この日以来、蓋が開かないように縛るゴムは2本に増えました。
蓋が開いてる!!
また、ある時は、モグラのケースや坑道を点検していると、寝室につながる坑道(プラスチックのネット)の一部をかじっているのを発見!!これ以上かじって穴を広げると脱走を許してしまうことになりかねません。すぐにネットではなくもう少し厚いしっかりとしたプラスチックのパイプに変更されました(参照:トイレと寝室の写真)。
しかし、その後もパイプにつながるトイレのネットパイプをかじっているのが見つかり、新しいものとすぐに取り換えられました。この部分は、今や要点検箇所となっています。
右上オレンジ色の部分がかじられている
このようなことが続くと、もしもの場合に備えなければなりません。先にご紹介した通り、モグラは体が何かに触れている方が安心する習性があるので、脱走を果たした場合はおそらく壁伝いに動く可能性が大きいと考え準備をしました。
まず、モグラの展示スペースの周りにモグラの通り道を作りました。いつも通っている坑道と同じプラスチックのネットで作ったパイプを展示場の壁とお家の間に設置したのです。体が接触するところに潜り込むと安心する習性から、もしも脱出した場合は第一に選択する場所となるでしょう。
ここを通るんだよ~
さらに、モグラの展示スペース全体をモグラが越えられない高さの壁で囲いました。力持ちのモグラがこじ開けてしまわないように重りで固定。スタッフが帰宅して翌日出勤してくるまでと休園日はこの状態でがっちりガードしています。
たとえ逃げ出してもこの中にいる!
今までの経験から、モグラはプラスチックケースの蓋をこじ開けたりすることに一度成功すると次回は必ず易々とやってのけるので、とても学習能力が高いことがわかります。だから、こちらも「そううまく事は運ばないよ」と知恵を絞るというわけです。まさにモグラと知恵比べです。
先日は爪が伸びていたので獣医さんに爪を切ってもらいました。パイプの継ぎ目をふさいで閉じ込め、プラスチックネットの間から飛び出た爪を切りました。じっとさせられることにストレスを感じたのか、パイプの中でハツはくるくる回りました。まるで「イヤイヤ」と言っているかのよう。回りながら爪切りから逃れられることを学んだようです。
クルクル回って爪なんか切らせないぞ!
こんなに長かった爪
今度爪を切るときまでに、くるくる回って邪魔されないようしっかり保定できる良い方法を考えておきましょう。こちらもさらに知恵を絞ります。
☆★資料館・津田★☆
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