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園からのお知らせ

チンパンジーのユウコが亡くなりました

最終更新日[2019年9月18日]

チンパンジーのユウコ(メス、推定41歳)

が亡くなりました

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枝豆を食べるユウコ

2019912日午前7時、寝室の天井に取り付けたハンモックの上でユウコの死亡を確認しました。

 

ユウコは野生由来のチンパンジーで1978年(推定)にアフリカで生まれ、幼少時に捕獲されて日本へと輸入されました。このように、過去にはたくさんの野生のチンパンジーが人間用のワクチン等を開発するための実験動物として(現在の日本ではチンパンジーを用いた医学実験は行われていません)、また動物園等で展示をするために、アフリカから輸入されてきました。当園にいるマルク、ノゾミ、カナエもユウコ同様、野生由来のチンパンジーです。

 

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島の大タワーの上でエサを食べるユウコ

ユウコはその後、いくつかの大学や製薬会社を経て、2013年の528日に京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリから当園に来園し4頭のチンパンジー(2011年に熊本サンクチュアリから来園)と一緒に繁殖を目指しながら群れ生活をしてきました。

 

2015年にはマルクとの間に待望の双子の赤ちゃんをもうけましたが、残念ながら1頭は死産で残りの1頭も生後間もなく亡くなりました。

 

20164月には熊本地震が発生。激しい揺れに強いストレスを受け、異常行動も見られましたが、群れの仲間同士で支え合いながら危機を乗り越えていきました。ユウコはカナエというメスの個体と時折トラブル(軽い闘争)を起こすことがありましたが、地震を機にお互いの絆が深まり、相次ぐ余震の度に真っ先にユウコとカナエが抱き合って互いを励ましあう姿も見られました。

 

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春、桜をバックに

2017年の4月に再びマルクとの間に赤ちゃんが誕生しました。私たち飼育担当者も今度こそはと期待をし、妊娠期間中にはユウコの子育て(授乳)を格子越しに補助するための訓練を進め、万全の状態で出産に臨みました。しかし、赤ちゃんは生まれて間もなく亡くなり、ユウコは亡くなった赤ちゃんを抱き続けました。ユウコがやっと赤ちゃんから手を放したのは亡くなって2日以上経ってからでした。

 

 

その後も、繁殖成功を目指して取り組んでいましたが、2017119日、右後肢を地面から浮かせて歩くようになり、食欲低下、右足の皮膚が紫色に変色してくるなど症状は日に日に進行しました。これを受けて、1125日に麻酔をかけて検査を行ったところ、動脈における血栓塞栓症による右後肢の広範な壊死が見つかったため、止む無く断脚手術を実施しました。


 

術後しばらくは一日の大半床に横たわり、ごはんを食べませんでした。手術の傷口も治りが遅く、予断を許さない状況が続きましたが、ユウコはこのピンチも群れの仲間の力を借りて乗り越えました。傷口が完治するのを待たずに、仲間のチンパンジー達との合流を試みたところ、他個体がグルーミングによってユウコの傷口についた余分な壊死組織を指や口で優しくつまんで取り除いてくれました。これにより、傷の治りが早まり、みるみるうちに快方へと向かっていきました。

 

 

手術の傷が完治した後も、ユウコには大きな課題が残っていました。リハビリテーションです。足を1本失ったことで、ユウコの活動量は少なくなり、行動範囲もずっと狭くなっていました。このままあまり動かない状態が続くと、運動不足によって残った左足が弱くなり、更に生活が不自由になったり、腹筋を使わないことで消化管運動が低下するなどの恐れがありました。そこで東海大学農学部動物行動学研究室と理学療法士の川畑智氏(株式会社Re学代表)の協力のもと、リハビリテーションを行いました。運動場内や移動通路にハードルを設置したり、高い位置からの手渡し給餌を一日に何度も行って、少しでもユウコの運動量を増やそうと努力しました。

 

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両手を力強く使って移動するユウコ



何か月もかかりましたが、結果的にユウコは他のチンパンジーと遜色がないくらい動き回って採食するまでに回復しました。振り返ってみると、5頭の群れの中での生活(挨拶、グルーミング、遊び、ケンカ、餌を採る際の競争・・・などなど)の全てがユウコにとって何よりのリハビリテーションだったのだと思います。

 

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口いっぱいにエサを詰め込んで、お気に入りの場所に運んでからゆっくり食べるのが好きでした


残りの4頭のチンパンジー達が右足を失ったユウコを気遣うような様子も見受けられました。「ユウコが前を歩いているときは、追い越さずゆっくりなペースに合わせる」、「ユウコがエサを採りに行く場所には誰もエサを採りに行かない」などの行動です。ユウコが自分のペースで十分なエサを食べて生活できるように、支え合っていたのではないでしょうか。

 

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断脚手術後に初めて5人全員を合流させた時の様子

3頭から同時にグルーミングされるユウコ(中心)



検証するために行った行動観察でも、他個体がユウコを気遣っていることを示唆する結果が得られました。ですが、数字やデータうんぬんではなく、毎日見ている飼育員の目にはユウコを気遣う他個体の様子がはっきりと見て取れました。私たちは群れの強い絆について、ガイドなどで来園者の方々に話すのがとても楽しみでした。

 

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ハロウィーンにカボチャを食べるユウコ



ユウコはその後元気に暮らしておりましたが、約1か月前に急に嘔吐、下痢をし、それに続いて食欲と元気がなくなりました。症状から腸閉塞を疑い、麻酔下での検査・処置を検討していましたが、徐々に症状は改善し、1週間ほどで寛解しました。

 

 

ほっと一安心した矢先の911日に、同様の症状(嘔吐、下痢、元気と食欲の消失)が再度起こりました。ただ前回より症状は軽かったため、翌日以降も注意して容態を観察し、少しでも悪化するようなら麻酔下で検査をすることにしました。翌日、朝一で寝室の様子を確認しに行ったところ、ハンモックの上で亡くなっている姿を発見しました。

 

 

解剖検査の結果、お腹の大きな動脈(腹大動脈)から枝分かれした、腸間膜動脈という大腸につながる血管が血栓で完全に塞がれているのが見つかりました。大腸への血液供給がストップしたことによって腸炎(虚血性腸炎)が起こって、大腸が一晩で壊死してしまったことが死因だと考えられます。過去に右足の断脚につながった血栓症然り、血栓ができやすい体質だったのかもしれません。

 

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秋、紅葉をバックに



ユウコに対してもっとできることはなかったのかと考えずにはおれませんが、今まで自分たちに出来る最善のケアを考えて一生懸命取り組んできました。この結果も十分に検討して今後の飼育管理技術の向上につなげていきたいと考えます。

 

41年という長い生涯の間に楽しいことも、辛いことも本当にたくさんの経験をしたユウコさん、お疲れさまでした。そして、ありがとう。足を失ったことにもめげずに、仲間と支え合って暮らす様子から大切なことを教わった気がします。

 

 

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ユウコの献花台。たくさんのお花や果物を頂き、有難うございました。



最後になりますが、今日までユウコのことを気にかけて応援してくださった皆様、当園の5人の群れを楽しんで見てくださった皆様、本当にありがとうございました。今後とも動植物園にお越しの際はぜひチンパンジー舎にお立ちよりください。皆様のお越しをお待ちしております。

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